【完結】〜最終回〜 愛する人にタバコをやめて欲しいあなたへ! 小説 これが禁煙の辛さだ!! その13

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※この文章はその1からの続きになっています。
もし読んでいない方はこちらからお読みください!!
今回が最終回です。
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あの印象的な日から。

それから日にちはゆっくりとしかし着実に過ぎ、ついには出発前日となった。

俺の絶食は続いていた。結果、最後までやり通せた事になる。安堵の気持ちが半分、よく保ったなと自身を褒めてやりたい気持ちも半分だ。

確かに食べたいという欲求はまだなくならないが、すこぶる体調が良くなった。まず胃もたれや空腹の時の胃酸の出過ぎがなくなり、身体が軽くなった。それと同時に、色々とセンシティブな器官が発達した感じでエネルギーの受け取りやテレパシーなどの感度が上がった気がする。あまりこの星の人と会話しても、いやそうなリアクションはしなくなっていた。

しかし、やはり食事どきとなると体が反応してしまう。また食事に見えるものだったり、地球から持ち込んだ映像コンテンツの食事シーンなどを見てしまうと、とたんに食べたい欲求が出てくる。その度に心の中では葛藤が渦巻く。

ただ心が落ち着いたからか、それらの欲求と俺の心そのものを、切り分けて考えることが出来るようになっていた。多分それができるようになったからこそ、これだけ気が楽になっているんだろう。

ボブとは、一週間前に別れを済ませた。バカンスも終わりだそうだ。また会おうぜ、と別れ際に地球人のやるようなハグと握手をした。地球とこの星までは物理的にかなり離れているが、何処かでまた奴とは会える気がする。それほど近く感じる奴も珍しいが、とりあえず楽しみが増えたなと思うことにする。

昨日、ディーラーとも最後に会った。本当に良くしてくれたと礼を言った。ディーラーはいやいやとんでもない、と答える。サービスが良いのは、この星の人が、お互いにお互いの気持ちの良い所を察する事が出来るからでしょう。と、照れながら付け加えた。

…しかし、本当に色々な事が起きた一ヶ月だった。それは恐らく一生忘れる事のない、しかし、今から思えばとてつもなく有意義な時間であった。もう追体験したくないとも思えるし、またこの気持ちを味わってみたいとも思える。

この構造ルールの外に出れば、俺は晴れて食事にありつける事になる。豪華なビーフステーキも食べ放題だ。息子にも会える、それをどんなに待ちわびた事か。俺はその幸せな想像に顔がほころんだ。

地球に戻ったら、もちろん地球圏の構造ルールが適用されるが、地球にも食べずに生活をした神様のような人も実際にいた事を考えると、もしかしたら俺は食べるか食べないかの選択が出来るようになるかも知れない。この星よりはエネルギーの取得は難しいだろうが、この感覚を持ち帰れば可能だろう。

どうしようか、俺は自問する。この星のエネルギーを体一杯に集める。同時にこの星の人々の想いも飲み込んだ。

ん…?

その刹那、人々と一緒に、この星自身の気持ちが通りすぎた気がした。その気持ちはただ一言「ありがとう」と言っていた。何が? と、一瞬思ったがほぼ同時に何故なのかを不意に理解した。

画一的な遺伝子になりかけていたこの星に、俺が来たことによって何かの動きが起きたらしい。その一滴の雫は波になり、その波は遺伝子の発動のトリガーになり、ユニークな展開が起こりそうな予感を伝えていた。

そうか、そういう事もあるのか…。俺は再度、この気持ちを反芻し、そして再度自問する。俺は地球に帰ったら一番に何をしたいかを。

しかし、もう、俺の答えは決まっていた。

……

 

長い間、お読み頂き大変ありがとうございました。あとがき(※ネタバレ有り)はこちら


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