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※この文章はその1からの続きになっています。
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俺は混乱した。言っている意味が分からない。俺にとっての幸せに関わる半分が食事に関わってたのだ。それが無くなる事の苦痛はボブにもわかっているはずだ。なのに逆という事は食べなくなって良かったなと言っているに等しい。
どういう事だよ、と怪訝な顔をする俺に、言わん事が通じないじれったさでため息を尽きながら、ゆっくりとした伝播でボブは答える。
「いいか、もうすでに分かっていると思うが、この星の人の食事は別に格式張ってやる必要はねぇんだ。その気になれば歩きながらでも、エネルギーを啄ばむことができる。なんで食事のサービスがあるかというと、セレモニーや誰かに会うための口実とか、つまり趣味の一環みたいなもんだ」
だからなんだよという俺の表情に、ボブは鈍いなあとイライラしながら答える。
「だからよ、つまり楽じゃねえか。毎日決まった時間に食事したり、食料が無くなって生存が脅かされる恐怖とか、そういう「呪縛」から解放されるんだぜ」
呪縛だと!? そんな風に考えたことなかった。確かにそれが出来れば、食事に生存が脅かされない。つまりそのために強欲に働く事も土地を奪い合うことも無くなる。それは確かに呪縛からの解放をいみするが…。
「まあ、俺らもやろうと思えば誰かの生体エネルギーを根こそぎ奪い取ることも可能だ。それに意図すればそれを利用して力の強い者がより強くなれるハイエラルキー構造も作れる。ただ、この星のやつらはその選択はしなかったな。何故かというと、それは誰にとってもつまらないからなんだが」
俺の思考を察知してボブは付け加えた。その言葉は、明らかにやれる側の立場の言葉だった。が、別の疑問も出てくる。つまらないってどういうことだ? いいじゃないか、ハーレムでも作れば。
「だってつまらないだろう? 全部おめえの思い通りに動くんだぜ? 動かされている側の人々もそうなると意識なんてあったもんじゃねえんだ。最初の1〜2日はいいかも知れないが、おめえの創造しうる以上の事は絶対に起きないんだ。それがずっと続くならすぐに飽きるぜ。おまえだって自分の作った同じ事しか喋らないロボットとばっかり喋っててもつまらないだろ?」
ボブはハーレムもな、と付け加えた。確かに食欲も肉欲もこの話の流れではそんなに変わらない物だろうな。ただ、現に今ここで苦しんでいる俺もいる。そこの気持ちの整理はどうしてもつけられない。
「それはおめえが、下を向いて小さい所で考えてるからだ。後で振り返ったら、ああ俺はなんて素晴らしい選択をしたんだろう、って思うぜ。きっと俺の事も感謝するだろうさ」
とっさに他人事だと思って、という気持ちが頭をもたげる。だが、確かに言っている事は的を得てる気がする。すぐに気持ちを奥に引っ込めた。
だからくよくよするな! と、肩をばんと叩かれた。ちくしょう、大人に諭されている子供みたいだな、俺。
俺のイライラも最高潮に達していたが、ここで爆発させるのもあまりに恥ずかしい。やり場のない怒りのため、拳がプルプル震えている。抑えろ、と気持ちの整理をし深く深呼吸をする。少し落ち着いたかと思い、ボブの顔を見た。
ボブは鼻をほじっていた。
俺は、10年振りに人を殴った。
……
続きます!! 続きはこちらのページから
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