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※この文章はその1からの続きになっています。
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この星に来て、口から物を摂取することをやめて3日経った。
結果からいうと所謂「絶食」は続いている、また、それに纏わる生命活動の不具合もない。また、ホテル初日に恐怖した指が4本しか見れなくなるような事も起こってない。つまり、ここの構造ルールに歓迎はされているのはこれでほぼ明確になった。
変化としては、テレパシーや生体エネルギーのやり取りなど、元々の地球人のスペックでは難しい事も、よりクリアに把握出来るようになった事だ。
恐らく、ここの構造ルールが俺を取り込む際に、こちらではエラーとして認識される箇所を、齟齬なく認識出来るように、ウイルスなどを通じていいようにDNA構造を書き換えたのだろう。それは良かったというべきか、しかし。
もう限界だ…。
それに反比例するかのように、俺の心はズタズタに切り裂かれていた。四六時中、何をしていても襲ってくる、堪えようのない飢餓感。とにかく何かをたらふく飲みたい、食べたい、食らいつきたいのだ。
その永遠に続くかと思われる苦しさで、俺は目に見えてイライラしていた。とにかく、朝晩のこの星の「食事」が、所謂、普段俺らが食べる物の味気ない代価品に見えて仕方ないのだ。いや、代価品にもなっていないのかも知れない。もっとガツンとした黒胡椒のような刺激と満足感が欲しい。
ホテルのプールで寝っ転がりながらそんな事を考えていると、よう、と向こうから見知った顔がやって来た。
その男「ボブ」はニコニコしながら手を振ってやってくる。ボブも同じくこのホテルに泊まっている。このホテルに宿泊する客は、この星の中でも所謂上流階級の人達が多いがボブも例外ではない。このホテルがお気に入りらしく、年に数回はここに来てバカンスを楽しむそうだ。
プールでよくすれ違うので、挨拶をするうちに俺の出身や仕事に興味を持ったらしく、色々話をしていたら仲良くなっていた。
ボブという名前だが、俺は奴から「東の黄金の国からやって来た偉大なる国の創始者の一族の上から40番目くらいの皇位継承者の16番目の息子」みたいな長ったらしい名称で自己紹介をされたのだが、俺は一切無視し「ボブ」と呼ぶ事にしていた。
何故ならそいつの背格好や雰囲気、顔立ちに至るまで、どう見ても俺の幼いころからの悪友ボブにそっくりだからだ。
向こうには、俺の考えはダダ漏れで通じてるので、もちろん、そう呼んでいることを知っているんだが、悪い気はないらしい。どちらかというと、いつも感じない思考パターンと、それから受ける刺激を楽しんでいる感じだ。
「よーう兄弟、何辛気臭い顔をしてるんだい?」
ボブは陽気に話しかけて来た。もちろんテレパシーなんでこの言葉は俺の意訳になるんだが、本当にこんな風なのだ。イメージとしてはアメリカ映画に出てくるような陽気な黒人をイメージしてくれればいい。
なんでもないよ、と、首を振る。もちろん何でもない訳はないのは向こうにも筒抜けなんだが。
「気持ちは分かるぜ、兄弟、まあこれでも食べな」
そう言って、レモン状の木の実を投げ渡した。これはこの星でもこの地域でしかとれないもので、いわくその気質はかなりの芳醇さとまろやかさがあり、それが好きな人はたまらない一品らしい。モノによっては余りに気質が強すぎて、万能感や酩酊感を得る人も少なくないとか。
俺は慌ててそれを受け取る。確かにこいつは他の食べ物よりは凄く「大きい」感じがするので好きなんだが。
「でよう、昨日から言ったが、そんなに悲観することもねぇんじゃねえの?」
そいつは、手に持っている木の実をペロリと平らげた。もちろん気質を頂くだけなので、その物としては無くならないし大きさや質量はかわらないはずだが、一瞬で木の実が目に見えて小さくなる。逆にボブの体が少し大きくなった印象だ。
…しかし、またこいつがかなり旨そうに食いやがるんだ。それがまた俺のイライラを増大させる。向こうはお構いなしだ、こちらの気持ちは重々分かっているはずなのだが。
ただ、一つ有難いのが、俺の気が荒いせいだと思うんだが、この星の人は俺と会話をすると一様に不快感を感じるようで、こちらが仲良くなりたいと思っても中々近づいて来てくれない。その点、ボブは違って初対面からこんな感じで接してくれる。彼は誰とでもこうなんだろうが、この星の中でも中々異質だろう。
この食べ物もそうだが、こいつから感じるイメージも総じて「マイルドで大きい」。一言でいうなら、…まぁ敵には回したくない感じだ。
イライラや悲観の原因は分かってるだろと一瞥し、貰った塊を頂くことにする。体にじわっと柔らかいエネルギーが広がる。俺も大分手慣れてきたのか、こいつらの言う味が何となくわかり出していた。
一息ついた頃、ボブはこう切り出した。
「なあ、また昨日の話の続きを聞かせてくれよ」
……
続きます!! 続きはこちらのページから
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